2013-03-16

Google Reader はフィードリーダー界の IE6 だったのかもしれない

2013-03-14 (木)、Google は Google Reader サービスの終了を告知した。サービスの終了日は 2013-07-01。

Google は、Google Reader に熱烈なファンがいることは承知しつつも、Google Reader のユーザー数が低下している ためサービス終了に踏み切ったと説明している。

周りの様子

突然のニュースに Google Reader ユーザーは恐慌をきたした。様々な要望・意見・疑問も噴出している。ユーザー減少がサービス終了の本当の理由か? 有料化で対応できないのか? フィード文化は死んだのか? もう Twitter や Facebook らソーシャル・サービスの時代ではないのか? ソーシャル・サービスの良さを認めつつも、フィード・リーダーの持つ良さを捨てられない... etc.

Google Reader Data Points は Google Reader の客観的なデータを提供している。

  • Google Reader で最も人気のフィードは CNN.com。2,400 万購読者
  • 二番手は Engadget.com。660 万購読者
  • 三番手は The New York Times。170 万購読者
  • Google Official Blog は 2007 年に購読者数 10 万を突破、現在 35 万
  • 同サイトの FeedBurner 統計によれば、Google Reader 及び iGoogle による購読は全体の 87%
  • Google Trends の傾向はスクリーン・ショットの通り:

ぼくが共感した意見は、F's Garage さんのこの文章。

Googleリーダーみたいに市場を食い荒らしまくって、他のRSSリーダーサービスを終焉に追い込んでおいておきながら、風向きが変わったら、さくっと終わってしまうことのほうが大問題。

F's Garage @fshin2000 :全収集型RSSリーダーの終焉とソーシャル化するWeb より引用

Google Reader の歴史

Google Reader のターニング・ポイントは 3 つ。

  1. 2005-10: Google Labs にて Google Reader リリース
  2. 2006-09: clmemo@aka: Google Reader バージョン・アップ
  3. 2011-10: Google+ とのソーシャル機能を廃し Google+ 連携を開始

最初の Google Reader はレンズ型とも呼ばれ、全てのフィードを読むのを前提としたスタイルだった。記事を次から次へと読む時の視認性には優れていたけれども、多読性はやや低く、拾い読み派には優しくない UI だった。

一年後、Google Reader は大きく UI を変える。小さな変更を含みつつも、2013-03-16 に至るまで全体の骨子は変わっていない。ぼくは最初の Google Reader の UI を好むけれど、機能という面では新バージョンの良さを認めずにはいられない。

2011 年は Google Reader の外側ではなく内側に大きな変化があった。Google Operating System の記事を引用する。

Everything started with a feed parser built by Chris Wetherell that turned into a feed reader, helped by Ben Darnell, Laurence Gonsalves, and Mihai Parparita. The product was launched in 2005 as a Google Labs project (後略)

In 2011, Google removed Reader's social features and replaced them with a Google +1 button. It was the beginning of the end for Reader, who lost all the engineers from the original team. Google Reader is in maintenance mode ever since then.

(訳) 全ては Chris Wetherell がフィード・パーサーを作ったことから始まった。それは Ben Darnell、Laurence Gonsalves そして Mihai Parparita の助けを借りてフィード・リーダーに結実した。そのサービスは 2005 年に Google Labs プロジェクトとして開始された。

2011 年、Google は Google Reader からソーシャル機能を削り Google +1 ボタンに置き換えた。それは Google Reader の終わりの始まりだった。Google Reader はオリジナル・チームのエンジニア全てを失った。その時を境に、Google Reader はメンテナンス・モードに入った。

No More Google Reader より引用

2006 年の新 Google Reader リリース以降、Google Reader は着実に競合サービスを追い落としユーザーを増やしていった。ぼくの印象では、ここ三年以上 Google Reader に心動かされる新機能が追加されたことはない。いわゆるメンテナンス・モードに入った、と呼ばれる時期と重なる。

Internet Explorer 6 の罪

ここで少し Internet Exlorer (以下 IE) の歴史を振り返ってみたい。IE のバージョン・アップを簡単にまとめてみた。

  1. 1995-08-24
  2. 1995-11-27
  3. 1996-08-13
  4. 1997-09-30
  5. 1999-03-18
  6. 2001-08-27
  7. 2006-10-18
  8. 2009-03-20
  9. 2011-03-15
  10. 2012-08-15

IE6 から IE7 の間に 5 年以上の間が開いている。他のバージョンと比べるとリリース間隔が異常に長い。この頃の Microsoft になにがあったのか。

2000 年以前、ウェブ・ブラウザー界は Netscape 社の Netscape Navigator と Microsoft 社の Internet Explorer に人気を二分していた。Microsoft は Windows にウェブ・ブラウザーを統合する戦略で Netscape に勝利する。大勢は 2000 年頃に決した。いわゆる第一次ブラウザ戦争。

2001 年にリリースした IE6 以降、Microsoft はウェブ・ブラウザーの新機能追加を止めた。ブラウザー・シェアは 90% を越え、最大の敵だった Netscape Navigator に力はなく、新興の Firefox や Opera は一部のギークに使われているにすぎなかった。もはや、新機能を投入する意味が「Microsoft」にはなくなっていた。

IE6 と IE7 の間に Microsoft に何があったか? 慢心があった。

Ajax の登場

2005 年、事件が起きる。Ajax 技術の発表。Google は Ajax を使って Google Maps をリリース。ウェブ・ブラウザー内で使えるスクロール地図が世界に衝撃を与えた。Firefox らがこの新技術にとびついた。今までウェブ・ブラウザーで出来ないと思っていたこと (もちろん、今では当たり前に出来ること) への道が大きく開けた。

IE6 もこの動きに追いつくべく IE7 を 2006 年 10 月にリリースする。第二次ブラウザ戦争が始まろうとしていた。

そして、多くの人達が気付いた。IE6 の寡占状態が続いた間、ウェブ・ブラウザー業界にほとんど進化がなかったことを。

重なる Google Reader

寡占状態による進化の停態。Google Reader は悪しくも、IE6 と同じ道を辿ったのではないか?

特徴的な機能で名を馳せた Rojo は 2006 年に Six Apart に買収されたあと消えた。Google Reader 以前に代表的なフィードリーダーだった Bloglines は 2010 年に姿を消した。「はてな」のはてな RSS も 2010 年に終了した。他にも多くのフィードリーダーが生まれては消えていった。

Google Reader のシェアはどんどん広がる。競合が減る。新機能が生まれない。それでも Google Reader のシェアが減ることはない。次第と「フィードリーダー」というもの自体に興味が失われていった。Google は慢心した。

Google Reader のオリジナル・チームを Google Reader プロジェクトから外したのも、慢心の一つではないか?

今、Google Reader 復活の嘆願をしている人達がいるという。気持ちは分かる。でも、Google Reader を「本気」で開発しようとしていない Google に Google Reader を延命させて、何か変わるのかしらん。オリジナル・チームが戻って来て、リリース当初のモチベーションで新機能開発を行なうなら面白いかもしれない。でも、今の Google には難しいように思う。

IE6 への引導は Ajax が渡したけれど、Google Reader は Google 自身が引導を渡した。人はその行為を「evil」と呼ぶかもしれない。でも、ぼくは、Google が Google Reader から興味を失っていたこと自体がユーザーに対する「evil」であり、サービスの中止は「evil」な自分を正す行為と受け取めている。ようやく、Google が「Do not evil」を一つ為したと思う。

既に Google Reader 中止を受けて、もしくは中止を予想して、多くのプロジェクトが動いていると聞く。フィード・リーダー使いにとっては厳しい冬が来るけれども、Google Reader が思いつかなかった世界を開くフィード・リーダーが現れるのではないか? 春は悲観する程に遠くはないのではないかと期待する。

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